月刊『薔薇族』編集長
伊藤文學の談話室

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ネット版伊藤文學のひとりごと

 

wpe45.jpg (5998 バイト)◆創刊のいきさつ
「昭和四十年の秋のことだったでしょうか。秋山正美さんが、原稿をもって訪ねてこられたのです。世田谷の下北沢にある、そう、世田谷区には何軒もない小さな出版社であるわが家にくる前に神田のほうにたくさんある出版社を訪ね歩いて、どこでもことわられて、わが家にもちこんでぎたのでしょう。
  話を聞くと、オナニーの正しい方法を書いたのだという。ぼくの頭に即座にピンとくるものがありました。これはイケる、そう思ったからです。
  駒沢大学にぼくが在学中のことでした。いつとはなしにオナニーをすることを覚えて、連日、家人がねしずまってから、ふとんの中で、ごそごそやったり、風呂場で石鹸をつけてこすると、白い液体がピュッととんで、恍惚感にわれを忘れていたものでした。
  毎日、頭が重かった。もう、今日はよそう、そう思い続けてはいたのですが…。
  罪悪感が重く頭におおいかぶさっていたある日、なにかの雑誌に、「オナニーは何の害にもならない」と、書いてあるのを見たときの喜びを、今でもはっきりと記憶しています。
  そのときのことを思いだしたからでした。『ひとりぽっちの性生活』(現在廃刊)という題をつけて出版したのです。
  予想していたとおり、中学生、高校生の若い人たちからも、たくさんの感謝の手紙をもらい、ほんとうに出版してよかった、そう思ったものでした。
  よくオナペットなどという言葉があります。吉永小百合の顔を思い浮かべながらオナニーをやる、また、ヌード写真を見ながら、好きな彼女のことを考えながら……、それがあたりまえと思っていたのです。ところがです。男が男のことを考えながらオナニーをしている、風呂屋でとなりの男性のモノを見ながら、流しの隅で、ひそかにオナニーをしている、そんな手紙がたくさんあったのです。ゲイという人たちの存在を、このとき初めて肌で感じたのでした。
  秋山さんに相談して書き下ろしてもらったのが『ホモテクニック』(現在廃刊)でした。第一章がホモの歴史。第二章が文学作品に現れたホモ。第三章がホモのテクニック。これを読めば、ホモのことはなんでもわかる、ホモ教書ともいえるものでした。
  ところが、まだその頃は、一種のタブーとされていたのです。映画にも、テレビにも、週刊誌にも出てはこなかったのです。そんな時代に出版するのだから、それなりの勇気を必要としたのです。本の取次店の仕入係に見本をもっていったら、「こんなものは売れない」と、ケンもホロロのありさまだったのです。ゲイの人がいっばいいるということを日をすっぱくして説明しても、わかってもらえなかったのです。「第一、女は読まないし、男もけがらわしいといって読まないし、いったい、だれが読むのかね」そんなありさまでした。
  ところがです。それが売れたのです。とぶようにです。それから版を重ねて、もう数万部は出ているでしょう。「ゲイの本は売れない」そんな出版界のジンクスはふきとんでしまったのです。
  時代は変わっています。こういう本を出していると、つくづく思うのです。今ではホモ牛乳も、ていさいが悪くて宣伝しにくくなっているありさまです。
  都会に住んでいて仲間をたやすく探し求められる人たちはいい。田舎にいて孤立している人たちはあまりにも寂しすぎます。回りがみんな正常な人ばかりのように思えるからです。もんもんとした寂しさの中で、同性のことを思いながらオナニ−にふけっているゲイの人たちに、本を出すことによって生きる希望をあたえ、連帯感をもたせることができたら、そう思うようになってきたのです。
  なんとかして彼らを明るいところへ、陽の当たるところへ、つれだしてあげたい。男が男を愛するということ、どうしても女性を愛せないのだから、これはこれで、仕方がないことではないか、人間の業のようなものではないでしょうか。
  第二書房のゲイのシリーズを読むことが生きがいのように思っている人たち。ただ、商売だから、そんなケチな考え方でなしに、なんとかして仲間をみつけてあげたい。そんな考えの末に、日本では最初のホモの専門誌、『薔薇族』を創刊することを決意したのです 。

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